データで斬る!世代別エンタメ比較

データが示す世代別特定の趣味財(収集品・模型・楽器等)への支出実態

Tags: 趣味財, 収集品, 模型, 楽器, 消費支出, 世代間比較, 統計データ

はじめに

本稿では、統計データに基づき、特定の趣味財(収集品、模型、楽器など)に対する世代別の支出動向を分析することを目的とします。余暇活動におけるエンタメ消費の中でも、こうした趣味財への支出は、個人の深い関心や投資的な側面を持つ場合があり、世代ごとの経済状況、価値観、ライフステージを反映する興味深い指標となり得ます。社会調査研究者にとって、世代間の消費構造の変化を理解する一助となる情報を提供することを意図しています。

調査データの概要

本分析に使用する主なデータは、総務省統計局が実施している「家計調査報告」および、特定の消費分野に特化した民間のシンクタンクによる調査データ(仮称:エンタメ消費実態調査2023)を基に構成します。家計調査は家計の収入・支出に関する詳細なデータを提供する公的な調査であり、エンタメ消費実態調査は、特定の趣味財に関する支出や所有状況についてより詳細な項目を設けているものと想定します。分析対象期間は、主に直近数年間とし、世代区分は便宜的に、20代、30代、40代、50代、60代以上とします。

世代別趣味・教養関連支出全体における特定趣味財の割合

まず、家計調査における「教養娯楽」費のうち、「教養娯楽用耐久財」や「他の教養娯楽用品」といった項目から、特定の趣味財に該当する支出を抽出・集計したデータを確認します。

図1:世代別 年間平均 教養娯楽支出に占める特定趣味財関連支出の割合(想定データ)

図1は、各世代の年間平均教養娯楽支出総額に占める、特定の趣味財(本稿で定義する収集品、模型、楽器等)に関連する支出の割合を示しています。この図から、全体として趣味・教養への支出の中で、特定趣味財が一定の割合を占めていることが確認できます。世代別に見ると、例えば50代および60代以上の世代において、この割合が相対的に高い傾向が見られます。これは、これらの世代が経済的に比較的安定していることに加え、長年の趣味に継続的に支出する傾向があること、あるいは特定の収集品や高価な楽器などへの投資を行う層が含まれる可能性が考えられます。一方で、若年層(20代、30代)では、この割合はやや低い傾向にありますが、これは教養娯楽支出全体に占めるデジタルコンテンツやライブエンタメ、外食などの割合が高いことに起因する可能性が示唆されます。

特定趣味財項目ごとの世代別支出比較

次に、特定の趣味財をいくつかの項目に細分化し、それぞれの項目における世代別支出の具体的な違いを見ていきます。家計調査の細分類や、エンタメ消費実態調査のデータから得られる知見を総合します。

図2:世代別 年間平均 特定収集品(切手・コイン・カード等)への支出額(想定データ) 図3:世代別 年間平均 模型(プラモデル・鉄道模型等)への支出額(想定データ) 図4:世代別 年間平均 楽器・関連用品への支出額(想定データ)

図2に示す特定収集品への支出については、60代以上の世代で顕著に高い支出額が確認されます。これは、かつて趣味として流行した切手やコイン収集などが、現在の高齢者層にとって継続的な関心事であること、また資産的な価値を持つアイテムへの支出が含まれることが要因と考えられます。若年層の支出は限定的ですが、近年増加傾向にあるトレーディングカードなど、デジタルネイティブ世代にも人気の収集品によっては、新たな支出傾向が見られる可能性もあります。

図3の模型関連支出では、50代、60代以上の世代に加え、40代の支出も比較的高い水準にあることがわかります。これは、特定の世代が少年期・青年期に親しんだ趣味を、経済的な余裕ができた大人になってから再開・継続する「出戻り」や「大人買い」といった消費行動が影響している可能性が考えられます。特に鉄道模型や高精度なスケールモデルなどは単価が高い傾向にあり、支出額を押し上げる要因となります。

図4の楽器・関連用品への支出は、世代間で比較的分散が見られますが、特定の世代(例えば、かつてバンドブームを経験した世代や、子供の習い事として楽器購入が多い世代など)で突出する傾向が見られる場合があります。また、デジタル楽器やDTM機材など、技術進歩に伴う新たな楽器関連市場においては、若年層の支出も一定数存在することが示唆されます。

支出傾向の背景と示唆

これらのデータから読み取れる世代間の支出差は、単なる経済状況だけでなく、以下の複数の要因が複雑に絡み合っていると推測されます。

結論

統計データに基づく世代別特定の趣味財への支出分析は、世代間の余暇活動や消費構造における興味深いつながりを示唆しています。収集品、模型、楽器といった特定の趣味財に対する支出は、単なるエンタメ消費としてだけでなく、個人の歴史、経済状況、社会との関わり方を反映する重要な側面を持っています。

本分析から、特定の収集品においては高齢世代、模型においては壮年期から高齢期にかけての世代で支出が高い傾向が見られ、これらの世代が過去に形成した趣味を継続している実態がうかがえます。一方、若年層においても、新たな形態の趣味財やデジタルチャネルを通じて支出が存在しており、趣味財市場も変化し続けていることが示唆されます。

今後の研究においては、こうした支出データと、個人の趣味に関する意識や行動、情報接触チャネルに関する質的なデータを組み合わせることで、世代別特定の趣味財消費の背景にあるメカニズムをより深く解明することが期待されます。また、二次流通市場やサブスクリプションモデル(例:レンタル楽器など)といった新たな消費形態が、世代間の支出構造に与える影響についても、継続的な調査・分析が必要です。

本稿が、世代別エンタメ消費に関する今後の社会調査研究の一助となれば幸いです。